神鳥の卵 第27話 |
仕事を終え、変装した咲世子を連れてゼロの私室に戻り仮面を抜いだ。 ここからは時間勝負。まわりに怪しまれないためには、5分以内にここから立ち去らなければならない。スザクが手早くゼロの衣装を脱ぐと、咲世子は手際よくそれらをカバンに詰め、着替え終えたスザクに変装を施した。かつらと軽いメイクだけだが、一見すると知り合いでもこれがスザクだとはわからないだろう。予定通り5分以内に二人はゼロの部屋を後にした。 地下深くにある厳重なセキュリティの施されたゼロの部屋。 二人分の靴音だけが響く無機質で寂しい通路に防犯カメラはないが、エレベーターホールからは防犯カメラが所狭しと設置されている。警備の最高責任者は黒の騎士団に所属しているシュナイゼルだから、二人がなにかミスをしても大事にはならないが、そこに行き着くまでに何人もの目に触れることになる。万が一にもゼロが変装し、地下から姿を消していると疑われてはいけない。 だから、ゼロと入れ替わりで部屋から出る人物を用意する理由が必要だった。 苦肉の策として、ゼロの私室の警備が必要だという流れを作った。 ゼロを暗殺したいと考える者はあちこちにいる。危険分子である彼らを手当たりしだいに制圧してしまえば地下に潜ってしまうため、密かに監視をつけ泳がしていた。その中で腕の立つ者たちをピックアップし、ゼロ暗殺に必要な情報を怪しまれないように流した。その結果、警備が厳重であるあの地下までテロリストは潜入を果たした。そして私室にまで潜入し、息を潜めていたテロリストをゼロと護衛についていた咲世子が制圧した。そうすることで、ゼロの部屋を警備する者が必要だという流れを作ったのだ。 ゼロの私室へ行くエレベーターは専用のものだ。地上にあるエレベーターホールの奥にある。元々警備員はいたのだが、そこそこ人通りも多く他のエレベーターは頻繁に稼働していたこともあり、現在の警備員の数では監視に穴があったため、だれも犯人の侵入には気づかなかった。だから警備とカメラを増やしつつ、さらに私室に信頼できる警備員を置くことに成功した。 スザクが演じる警備員は、ゼロの私室の1室でディスクワークをしながら警備をしていることになっている。ディスクワークに関してはルルーシュがC.C.に手伝わせながら処理しているため、ゼロの信頼も厚く身体能力が高いだけではない。全てにおいて優秀な人材だと密かに噂になっているとか。 咲世子に用意された偽の身分はゼロの護衛兼ナナリーの護衛だ。 ゼロは今仕事を終え地下室に戻ったので護衛の任務は終了。 いまから二人でナナリーの護衛をすることになる。 その護衛は彼女の自宅の警備も含まれているため、二人は住み込みで働いていることになり、流石にそれはオーバーワークだと、上に進言してくれる者もいたが、ゼロとナナリー、そしてシュナイゼルの信頼も厚い人物など片手で数えられるぐらいしかいないことと、何より警備の二人が望んだため、その人達は渋々手を引いたが、無理はせずちゃんと休憩時間と休暇はもらうようにと何度も言ってきた。 その後彼らの処遇が良くなったのは言うまでもない。 執務室まで迎えに行くと、ナナリーは二人を笑顔で迎え入れた。 「今日もよろしくおねがいします」 「はい、ナナリー様」 それまでナナリーの護衛についていた者からの引き継ぎも済ませ、彼女を地下駐車場まで連れて行く。 ナナリーが乗る車は咲世子が運転し、スザクはバイクで先行して走るのだが、最初は安全面に問題があると猛反対された。「ではテストを」と咲世子が申し出、スザクはバイクで、咲世子はナナリーを乗せて車で移動しながら、各場所で仕掛けてきた黒の騎士団員を含む護衛全員負かしたことで、この二人なら間違いはないし、「少数の方が逆にばれないのでは?」というナナリーの一言で二人にすべて任されることになった。 混雑する都心を抜け、郊外へと車を進める。 すでに陽は落ち、あたりは暗く、街頭とヘッドライトの明かりだけが夜道を照らしている。 『つけられています』 咲世子から通信が入る。 「赤い車ですか?」 『はい』 気づいていましたかと咲世子は感心したように言った。 咲世子が運転する車から2台後方にいる赤い車がずっとついてきている。 この車を撒いても、おそらくどこかで待機している別の車がついてくるだけだ。これだけ入念に準備し、うまく隠せているはずなのに、ナナリーの護衛の1人がゼロなのでは?という噂が出ているという。 ナナリーより目当ては護衛のほうかもしれない。 ゼロを狙うものは多いから、相手を判別するのは難しいか。 「ひとまず、ガソリンスタンドに行きましょう」 『かしこまりました』 もともと、帰りがけにガソリンを給油する予定だったため、いつも使っているガソリンスタンドにバイクを滑り込ませた。 咲世子が運転する車も続いて入る。 ガソリンスタンドのスタッフはテキパキと対応をし、減っていたガソリンを満タンにしていく。ついでにと、頼まれていた灯油も積んでいたポリタンクに補充し、ガソリンの携行缶を買い、それにもガソリンを補充する。屋敷にもガソリンはあるが、万が一のときには長時間走行することになるかもしれない。いつ給油ができるかわからなくなるなら、念の為携帯しておいたほうがいいという判断だ。 それらは咲世子に任せ、スザクは辺りをうかがう。赤い車はスタンドを通り越し遠くへと走り抜けた。当然だ、ここに入ってきたらつけていたことが確定してしまう。そんな危険は冒さない。さて、何台ついてきていたのか。給油を終えるまでに数台の車が通り抜けた。こちらの動向を確認するために顔を向けた者がいた車は4台。思った以上に多い。追い越していった車はこの先のどこかで待ち伏せしているだろう。 さて、どうしようかな。と考えていると、車が1台スタンドに入ってきた。鋭い視線を感じ、連中の仲間か別のチームか?どちらにせよ、敵だ。と、思ったのだが。 「あんたたち、まだここにいたの?」 車から顔を出したのはサングラスを掛け、髪型を変えていたカレンだった。 彼女は普段黒の騎士団で働いている。今日の仕事が終わってすぐに追いかけてきたのだろう。 「なんだ、君か」 「何だって何よ」 普段はバイクのカレンだったが、今日は車だったため敵と誤認したとは言えず、スザクは無言のまま周りに目を向けた。ガソリンスタンドの店員は、車にナナリー総督が乗っていて、ここにいるのが護衛だと知っている。だから多少長話していても何も言われない。 セキュリティの問題で、こういうガソリンスタンドは使うべきではないと言われているが、反対にこういう場所を使うからこその利点もあった。 「お二方、少しよろしいでしょうか」 咲世子が話しかけてきた。 彼女は、スタンドの店員と少し話をしていたらしく、そこで得た情報を二人に流した。どうしてスタンド店員が?と思うかもしれないが、ナナリーはブリタニアの元皇族。ブリタニア人にとっては神のような存在だった血筋の数少ない生存者だ。ルルーシュが皇族と貴族制度を崩壊させたと言っても、人々の思考がすぐに切り替わるわけもなく、ブリタニア人の大半には今も尊い血としてナナリーたちを崇拝している。 そんなナナリーが立ち寄り、一般人である自分たちにも心をかけてくれる。そんなウワサは悪い結果だけを生むわけではなく、こうしてナナリー様のためにと動く者たちの情報が届くこともあるのだ。 「・・・そうですか。急いで帰った方が良さそうですね」 残念と言うべきか、いや、こういう情報を得えられたことを喜ぶべきか。 負の情報を耳にしたスザクは、表情を改めてからバイクに跨った。 ******** ゼロ衣装を持ち帰るのは洗濯するためなのと、誰かに使われたら大変だから。 エレベーターをカードキー式とかにして特定の人物だけが入れるようにする案も、セキュリティを突破する相手なら意味がなく逆に危険だと却下されたとかそういう話だと思う(てきとう) |